ジュース屋さんは朝が早い
きったり、むいたり、しぼったり
お店に入った瞬間に感じる、この香り。日本人でよかったと感じる、この香り。店内には、すべて国産の材料でつくられたふりかけなど、20種類もの鰹節関連の商品が並び、こだわりのものがたくさん。ここ、靭鰹節店はおじい様の代から続く昭和28年創業の鰹節屋さん。鹿児島県にある下甑島(しもこしきしま)出身の彼がカラダひとつ丁稚奉公でやってきたこの大阪で商いを始めた。お店がある靭公園付近は昔、商人たちが荷揚げのために開削した浜と川が広がり、昆布、塩干魚、鰹節などの海産物市場としてにぎわい、中央市場ができて多くの店が移転してしまう前までは数百件もの海産物問屋があった。日本人にとって鰹節は、出汁の旨味を作り出す名脇役というのか、それとも料理の縁の下の力持ちとでもいうのか、当たり前のように今も昔も台所にはかかせない。のに、専門店はどんどん減っていく。移り行く街並みの中、今も変わらずおいしい香りを伝え続ける靭鰹節店。30年ほど前までは卸業1本だったが、好意にしていたお得意先からその仕事を引き継ぐようなカタチで本格的にここで「削り」が始まった。
丁寧に手入れされた削り機からでるふわふわな削り節。
今はもう製造されていないこの削り器。もう何十年、毎日向き合うパートナーは自らの手で少しずつ手入れしていく。そこから流れ落ちてくるふわふわのごちそうは1本1本丁寧に作り上げられた鰹節を熟年の技で削りあげたもの。お客さんの好みに合わせ、産地や脂乗りなどを考え、削り職人の3代目が鰹節をブレンドしてくれる。わたしたちが普段スーパーなどでよく見かけるパック詰めされた鰹節は「荒本節」といわれるもの。かつおを獲ってから乾燥などの工程を経て約2週間でできあがる。そしてその荒本節にカビをつける工程を3度くりかえし、約4ヶ月かかってできあがったものが「本枯節」。味にこだわる人や料亭などでよく使われている。愛されつづけるこの削り機で鰹節のオーダーメイドなんてけっこう粋かも。さてさて、2本の鰹節、どっちが脂が乗ってるのかな?(※写真参照)
上:この笑顔に癒されます。
下:お題の2本の鰹節、同じにみえるけど味はちがう鰹節。
お蕎麦屋さんからミシュランのイタリアンレストランまでたくさんのお店で使われる靭鰹節店の“かつおぶし”。和、洋、中、どんな料理にも出汁をとって使えば、1つ上の味わいをだしてくれる。鰹節には、必須アミノ酸を全て含んだ良質なたんぱく質や、ビタミンを含み、脳の活性化にいいとされるDHAも含むパーフェクトな食材。子供のころから一家の食卓には毎日あたり前のように並んでいた花かつお。今でも毎日かかさず食べているお母様は、実際の年齢よりも骨密度が40歳も若い!そして靭鰹節店の味を知った、ある赤ちゃんは他の鰹節を食べられなくなったそう。子供から大人まで安全安心なものを食べて欲しいと願い、「打倒 化学調味料!」を掲げながらいろんな商品の構想を練っている3代目ご主人。この広がりは脇役だけじゃおさまらなさそう。
上:全て国産のもので作ったおいしくて安心なふりかけ。
下:本枯節(非常時にこれ一本あれば安心!)
歴史を感じる木製の表札がお店の目印。風情ってこれだなと、感じます。
取材・文・写真/荒川 純子