レコード曲げ屋
あふれるモノの中で生み出された、新しいジャンル。
上町筋に、かの有名人ピノッキオが看板息子さながら店番をする店がある。風神雷神ごとく、引き戸の入口を挟んだ対岸には露わな脚がにょっきり…足を踏み入れ高い天井の店内をぐるっと見渡すと、なにやら見たことのある車やお酒のロゴ、エスプレッソ用のカップ&ソーサー、独特の喋り方のラジオ番組…どうやらここはイタリア雑貨専門店のようだ。なるほど、さっきのはイタリアーナの理想的な御御足(おみあし)なわけね。
店内のほぼ全ての商品には何かしらイタリア語が書かれていて、まさにイタリアーノ・オンパレード。主に取り扱っているのは50〜70年代デッドストックのイタリアで作られた広告デザインもの。ロゴや図柄でその時代の空気を汲み取ることが出来るので、好んで仕入れているとのこと。謳い文句を身に纏ったアイテム達は、いまにもあれやこれやと話しかけてきそうだ。しかも企業の名を背負っているだけに丈夫で使い勝手よく、お気に入りが見つかればまるで何でも話せて頼める友人を手に入れた気分になれそうだ。
彼に見つめられたら、あなたもこの店の仲間入り
あれがいい、これがおすすめだ、と話したがりで確かな目を持つイタリア人独特のセンスが宿ったモノ達を、これまた話好きで面白いものが好きな大阪人が集めた店は、気がつけば10年経っていた。
毎年蚤の市などに買い付けに行くので、個人コレクションから譲ってもらうほどの顔なじみも出来た。偶然宿泊した宿の主からは、「うちが畑から作り直した正真正銘100%オーガニックのオリーブオイルなんだ、日本でも絶対みんな飛びつくよ!」と販売委託を頼まれた。はじめは食品を扱う気などさらさら無かったので断ったが、あまりの美味しさと熱意に根負けした。こっちの状況お構いなしにいきなりボールを投げてくるような、壁が無さ過ぎる付き合いが面倒くさいこともたまにある。けど、それがクセになりイタリアが好きな人も多いだろうし、この店自体がその賜物だ。しかも、それって大阪の気質と似ている気がする。
上:ずらっと並んだエスプレッソのお供はひとつひとつ見比べたくなる
下:このオリーブオイルのためだけに来店する常連さんもいるほど
取材当日は、常連さんがただ世間話をしに立ち寄っていた。筆者は祖父母の店で育ったこともあり、お店とお客の垣根の無いやり取りがある文化が好きだ。おしゃべり文化のイタリアでは当たり前だが、便利になった日本ではそういう場が減っている気がする。
店主の興味のあるものだけを詰め込んだこの場所は、顧客目線重視の時代に逆行していると近所の商売人から言われてしまった。「まあひとそれぞれで、いいと思うねん。」がここの店主。そんな彼女が“好き”で連れて帰ってきたモノたちは、イタリア本国からも注文が入るくらいの粒ぞろいでひとつひとつの解説を聞いてみたくなった。(なんと現地で、偶然にもその注文主と出会ったことも!)お話途中のわき道はご愛嬌。なんたってネタが尽きませんから。
ここに来たら、素敵なモノとの出会いがあるだけでなく、ヒトとヒトってええなと思わせてくれる。
まるでイタリアに来たかのような、現地感満載の店内
上:バーカウンター(本当はレジ台)越しの会話は本場のバールさながら
下:あんなところに店名と縁の深いトッポジージョが
※店頭のみ使用可。インターネットでの注文は銀行振り込み。
取材・文・写真/後藤 真悠子