おもしろい人、ものが集まって
コラボレーションする。
それがアートの新しいカタチ。
東日本大震災を機に価値観が変わった。
「商店街ポスター展」とは、商店街各店舗のポスターを電通のスタッフが制作し、それをアーケード中に展示するというもの。大阪の「新世界市場」に始まり、ありがたいことに「文の里商店街」、「伊丹西台」、そして「宮城県女川」…と全国各地に広がっています。
プロジェクトの始まりは、新世界市場をアートやパフォーマンスで彩る「セルフ祭」でした。商店街は賑わい大成功に思えましたが、蓋をあければ翌日からはもの寂しい商店街。さらに売り上げに還元されず、若手と商店主の交流もなされてない…。そんな反省点の中、第2回のセルフ祭で自分なりにできることを考え、「お店のPRポスターを作る」ことを思いついたんです。僕自身コピーライターで、ポスターを制作するのは朝飯前! 当時、会社の若手メンバーの教育係もしていたので、彼らの力を借りながら約20店舗のポスターを作り上げました。もちろん商店街からお金なんかもらえるわけないので、コピーもデザインもすべてボランティア。その代わり「自分たちが好きなものを制作する」「気に入らなくても展示してもらう」「プレゼン&修正はなし」という3つのルールを定めました。
こちらはコピーも落書きも日下慶太作
結果、ポスター展は大成功。「もったいなくて貼れへん」「家宝にするわ」という嬉しいお声をたくさんいただきました。さらに、受け身だった商店主さんが「あんなんしたい」と発言するようになったり、祭り後も「ポスター残しといて」って空き店舗で展示イベントをさせてくれたり…。これは、最高にうれしかったですね(笑)。商店主さんとの距離も一気に縮まりました。もちろんお客様からも好評で、わざわざ立ち止まってポスターを見てくれたり、たくさんの取材も入りました。
その後、ポスター展は「文の里商店街」、「伊丹西台」、被災地の「女川」と広がっていきました。「女川」では、地元・仙台の方が作ったからか表現の重みが違いましたし、大分では右側にポスター、左側に情報を掲載したガイドブック形式、福井では高校生と二人三脚でポスターを作り、新しい可能性を見出しました。
僕たちの仕事はクライアントありきで、自由にクリエイティブを発揮できる仕事は滅多にありませんから。ポスター展は、クリエイターにとっても個性を出せる非常にいい機会になりました。しかも地域を元気にできるなんて、この上ない財産やと思います。
きっかけとなった新世界市場の商店主たちとの会話は日常に
プライベートでは、UFOを呼ぶバンド「エンバーン」のリーダーや、写真家としてツッコみたく風景をくすっとくるコピーと組み合わせた「隙ある風景」を連載しています。エンバーンはね、話すと止まらなくなるんですが(笑)。ボーカルと楽器で形成されていて、演奏を通じてUFOに「ここにいる」っていうサインをおくるんですよ。すると、友好的な宇宙人たちが反応してくれるんです。つい先日も、大野山のキャンプ場で30分くらい演奏していたら、謎の飛行物体が近づいてきました。UFOってね、信じない人には見えないんです。だから、まずは信じることが大事。彼らにはすべてお見通しみたいですね(笑)。
写真も趣味のひとつで、道で寝てる人とか、電話ボックスで携帯で話す人とか、日本語版の「るるぶ九州」を読む黒人とか。こういう思わず見てしまう光景を、7、8年くらい撮りためています。これは、制限のある広告とはまた違ったクリエイターとしての活動。最初は「二兎追うものは一兎も得ず」って言葉もあるように、統一感のないことをやるのはあかんと思ったんですが、表現の幅は広がったし、ゆくゆくは繋がるんやなって。長い目で見たとき「よかった」って思えるようになりました。
上:ポスター展は大阪検定まで広がった 下:市場内のピカスペースは彼にとって憩いの場
上:金色の宇宙人の格好で指揮者をしている 下:決定的瞬間を撮りためている「隙ある風景」
取材・文/櫻井 千佳、写真/山下 拓也(一部本人提供)