おもしろい人、ものが集まって
コラボレーションする。
それがアートの新しいカタチ。
東日本大震災を機に価値観が変わった。
「ズレて、カスれて、手についちゃう。」-印刷物としてはよろしくないこの特徴を、開き直って強みにかえてしまった印刷屋さんがある。どこか昔懐かしく、愛着が沸く風合いの「レトロ印刷」は口コミで広がり、工場と店舗が一体となったこの場所は現在、様々な表現が可能な印刷の枠を超えた場となっている。
「KO-HAN」という、孔版印刷からネーミングされたレトロ印刷JAMの店に入るとまず迎えてくれるのが個性豊かな商品たち。実はこれ、ここで印刷されたものを店が買い取って販売委託しているのだ。そして入り口脇の「JAM置き」にずらっと置かれているのも、もちろんここで生まれたフライヤーたち。更には無料で使えるシルクスクリーンの作業場とギャラリースペースも併設されていて、「なんか作りたい!」と思わずにはいられない空間だ。
さらには全国を旅して見つけた工場と協力して本物のわら半紙「富士わら紙」を作ったり、オリジナルはんこの受注を開始したり、音楽会を開催したり…この場で生まれるものは単なる印刷物の枠を超えている。
広い店内には自由な空気が漂っていて、わくわくする
「レトロ印刷」という屋号を付ける前は不動産やスーパーのチラシを主に扱うごく一般的な孔版印刷専門業者だったが、この仕上がりのクセに着目したクリエイターの依頼を受けることもしばしあった。しかしクリエイティブな表現を求めるだけでは商売は成り立たないもので、納品先からクレームが来ることも。お怒りはごもっともであるし、印刷屋自身もその点を常に懸念していた。
しかしそれが孔版印刷の特徴であり、変えることはできないもの。このジレンマのなか、ある時「ならばこの際言い切ってしまおう!」と、まちの印刷屋は大胆な方向転換を図った。より面白いものを作りたいというクリエイターに協力する道を選んだのだ。
ミュージシャンからご近所のおばあちゃんまで、いろんな人がやってくるシルクスクリーンの作業場
そんな過程を経て作られたこの場所は「作り手にどう使ってもらうか」をかたちにしたもの。たとえばKO-HAN 店頭とWEBページで展開している「JAM 置き」にはここで印刷された全国のお店やイベントのフライヤーで溢れていて、利用した人たちの情報掲示板になっており、いわばレトロ印刷JAM のあり方の象徴だ。「うちの発信力が強いのではなくて、発信力が強いお客さんが使ってくれるから。」作り手達によって、この場所は自然に広がっていった。
「これをしたらあかんとかはなくて、とにかく応援すること。飽きられないように、作り手さん達がやりたいことに協力する方法を自分達でも探しています。」―常に新しい“白紙” を提示してくれる作り手の最高のサポーターは、じつは常に挑戦し続ける最高のライバルかもしれない。
トイレも手作り感満載で使い終わった版を飾っているのがニクイところ
レトロ印刷 JAM主催イベントはジャンル問わず・誰でもウェルカム
取材・文・写真/後藤 真悠子