おもしろい人、ものが集まって
コラボレーションする。
それがアートの新しいカタチ。
東日本大震災を機に価値観が変わった。
『風呂ンティア』という名で、個人宅の風呂に絵を描くアートプロジェクトを行っています。家は人生においていちばん大きな買い物。しかも風呂は一日の疲れをとるオアシスでもあるので、依頼主と風呂の関係を観察しながら世界観をつくり上げるように心がけています。
私が風呂ンティアの活動を始めたのは、2011年の正月のこと。知り合いのカメラマンさんと「お風呂に絵を描いたらおもしろそう」と話していて、その人の家の風呂場に描かせてもらったのが始まりです。そのときに描いたのは雄大な富士山に、松、日の丸。このときは銭湯画のルールを無視して、とにかくひと目で日本と分かるものを描きました。その後、別の知り合いが依頼してくれたり、自分から打診したりして、口コミで広がっていきました。
このとき使う画材は水性ペンキ。筆を使って絵を描くのは初めてでしたが、グラデーションでこれだけ世界観が広がるのだと自分でも驚いています!
水性ペンキ4色を混ぜて絶妙な色をつくりだす
絵が完成するまで最低2、3日はかかるので、依頼主の家にホームステイして朝から晩まで描き続けます。もちろん、この期間は依頼主やそのご家族と寝食も一緒。絵を描いている間は風呂を使うことができないので、一緒に銭湯に行って裸の付き合いをしています。これを繰り返すうちに依頼主との仲はどんどん深まり、ビジョンも明確になっていくんですよね。それを私が描きたいものや、風呂の構造などとすり合わせながらカタチにして行きます。
例えば、ハワイが好きなご婦人にはダイヤモンドヘッドと、那須のサーフボードに乗った人を。三重県にお住まいの方には夫婦岩と長生きして欲しいという想いを込めて海亀を…というように、お一人おひとりの絵にはまったく異なるストーリーが込められています。ただ、富士山が登場するのは絶対。よりリアルに描くため、2012年の冬に富士山を360度眺める旅に出たくらいです(笑)。
富士山×夫婦岩×海亀
現在、建築家の吉永規夫氏、大工の長岩正一氏とともに 「N.P.O.」というユニット名でコラボレーション作品を制作しています。コンセプトは“記憶と、記録と、家屋に残る製作集団”!吉永さんが設計、長岩さんが施工、僕が絵画というそれぞれの得意分野を生かすことで、作品により価値が生まれたらいいと願っています。
特に記憶に残っているのは鹿児島で二段風呂を作り、そこに桜島や種子島の打ち上げロケットなど鹿児島になじみのあるものを描ききった作品。展示を終えたあとは、作品をお焚き上げしました。やはり土台を築いてくれる二人がいることで、作品の可能性はどんどん広がっていると思います。近々のビジョンは住まいをベースからつくること。風呂に関してはブラックタイルにゴールドの富士山を描いて、縁起のいいものに仕上げたいですね。そして、この三人なら成し遂げられると自負しています。
吹上ワンダーマッププロジェクト鹿児島での二段風呂
※ピカスペースにて常時作品展示中
取材・文/櫻井 千佳、写真/山下 拓也(一部 風呂ンティア提供)、場所提供/ヨシナガヤ