おもしろい人、ものが集まって
コラボレーションする。
それがアートの新しいカタチ。
東日本大震災を機に価値観が変わった。
書道の講師を仕事にする傍ら、書家としての活動にも精進しています。書道=敷居の高いものと思われがちですが、実は写真や絵、音楽同様にさまざまな表現ができる分野。その可能性を探るべく、アーティスト活動を初めて約8 年が経過しました。書道は一筆書きのシンプルなスタイル。そこに偶然性、今までの経験、そのときの感情性がうまくコラボレートし、ひとつの作品が完成します。たとえ同じ人が同じ文字を書いても、力加減によってタッチは変わりますし、コンディションの悪いときは墨の色に濁りが生じます。このように今の自分が敏感に出るのが書道。だからこそ、色数が少なくとも、さまざまな表情に仕上がるんです。また、墨を構成する原材料や寝かす時間によって、さまざまな色の表現が叶います。たとえば「夕焼け」を表現するときに「赤」という言葉を使うと直接的ですが、赤みがかった黒を使って表現すれば、見る人の想像力を掻き立てることができます。こちらの仕掛け次第で、相手の想像性をくすぐる…。これが書道のおもしろさです。
作品「翡翠の影」
私は作品を見てもらうときに、解釈を相手と共有するスタンスでいます。それは、白黒の文字というシンプルな表現ゆえに、受け手によってさまざまな解釈で会話が生まれるからです。以前から、表現の幅を広げるために、書道作品だけでなく、アートにも触れるようにしています。たとえば私の作品にマッチしたのが、ギターの音。ギターを演奏するとき、強く弾いたり、弱く弾いたり、またはいくつかの音を同時に鳴らしたりしますよね。それをうまく生かすには、筆2、3 本をお箸のように持って、ひとつの文字を様々な線で書くことで表現しました。この方法と淡墨のにじみを生かした作品が「翡翠の影」ということば。翡翠のミドリ、川のキラキラ感、翡翠がうつる影を表現した作品です。川の流れは、ゆるやかだったりハードだったり、川幅が細かったり太かったりと、蛇行を繰り返しています。これを表現するために、筆3 本を使ってさまざまな線を描きました。ことばを考えるときは、春夏秋冬の情景がカギになります。日本人でよかったと思える瞬間です。
筆 2 本を使用して様々な線を表現
つい先日、ダンスと音楽と書がコラボレートしたイベントを開催しました。そのとき私が挑戦したのは、ダンサーの方がまとう衣装に色・線を描くというもの。立ち止まっているときと踊っているとき、衣装がなびいたときと巻きついたとき…など、ダンサーの動きによって見え方が変わるのがこの作品の狙いでした。事前練習をするとイメージが固まってしまうため、私が筆を持ったのはリハーサルと本番の二回のみ。この緊張感も、作品をレベルアップする材料になりました。結果は見事成功! このように、ほかのアーティストの方とコラボレートすることで、書道の新たな可能性に巡り会えた気がします。これから挑戦したいのは映像。音楽で例えるならCD とライブのような関係性になりますが、CD が今までの作品だとしたら、そこにライブ=パフォーマンスを加えて、たくさんの方に発信できたらと考えています。
作品「秋櫻が揺れている」
取材・文/櫻井 千佳、写真/山下 拓也