大阪の薬の町、道修町(どしょうまち)
医薬品産業の発祥
毎日のようにお世話になっているのに労われる事もなく、だのに文句も言わず、居なくなってからやっとその大切さに気付く、そんな存在。なんて健気なのだろう、ボタンって。むしろアクセサリーに作り変え、主役にしてあげたい。— カラフル、レトロ、ウッディー、エレガント、シック、変わり種…いろんな顔を見比べていたら、ふと愛おしくなってきた。
ここは谷六の裏路地にあるボタン専門店。国内外から選んできた、もしくは人づてで自然と集まってきたボタンたちはそれぞれ世界観があるにも関わらず、ケンカせず仲良くずらっと並んでいる。店主がまるで舞台演出家さながらに「この子は一点主張型、こっちは複数でいけるタイプ」と振り分けながら仕入れた彼らは、お行儀よくこちらに顔を向けて次のステージに抜擢されるのを待ち望んでいる。定番からユーモアたっぷりなものまで幅広く揃う役者達のなかにはソロでもグループでも大活躍する“完璧なボタン”が稀に存在するらしい。そんなボタンに出会えたら、それは運命なのかもしれない。
この中からどれだけの役者に出会うのか、ワクワクすること請け合い。
時代により装飾品やステータスシンボルでもあったボタンは、現代でもさまざまな趣向を凝らしたものが目白押しだ。しかし「ボタンは機能が第一。デザインだけではボタンとは言えない。」がボタン目利きの意見。確かに、いくらおしゃれでもボタンとしての役割を全うできなければ、結局ただのお飾りに過ぎない。この数ミリの中には絶妙なバランスが存在しているようだ。
物腰柔らかながら情熱を秘めた店主は、それぞれ出会ったときのこと覚えているほどボタンへの愛情が深い。どれも個性的でありながら、素直さが垣間見えるのはそんな彼女のセレクトだからだろう。
上:アンティークの黒ガラス。チェコ製とアメリカへの輸出用に作られた日本製。
下:アメリカの森から届いた手作り木ボタンも、人づてに集まったもののひとつ。
そもそもボタンというものは、意外にも一回作りきりのものが多く、「前あったのに今は無いの?」と聞かれることもあるそう。つまり、一期一会なところもまたボタンの醍醐味。
シャツなどは全てのボタンが揃っているのが前提で、1つでも欠けたら服そのものが使えなくなる。いつもの服も、少し豪華なボタンに変えるとたちまちよそ行きに。そんな魔法のスイッチのような存在が、ボタン。あくまで服ありきだけど、絶対的に必要なボタン。そんな確かな働きをしてくれる彼らのことを、ここでは“脇役”ではなくスポットライトを浴びた“主役”と呼びたくなる。
上:美術品のように美しいアンティークボタンも。
下:各種パーツも揃い、選んだ品を広げて吟味できる机もあるので創作意欲が湧く。
なんとこちらは小エビ入り!
作家ものの高品質かつエキセントリックなボタンにもお目にかかれる。
取材・文・写真/後藤 真悠子