ジュース屋さんは朝が早い
きったり、むいたり、しぼったり
玩具や駄菓子の問屋がずらっと連なる松屋町。大阪人からは「まっちゃまち」と呼ばれるこの町は、江戸時代から菓子問屋街として栄え、いまでもどこか懐かしい温度が伝わってくるまちだ。そこに、この町で生まれ育ち幼い頃からナッツに親しんできた女性が店を構えた。「杏」というナッツと焼き菓子の店だ。
いわばこの町のバックヤードのそのまた奥、表通りから路地に入り込んだガレージの奥にポっと植物たちと共に生えてきたかのように佇む、木の小屋。ナッツの加工工場として稼動していた当時の残り香がかすかに漂う店内は、むき出しの配管や木の質感でともすれば男らしくなりがちだが、オーブンから漏れてくる甘い匂いと店主の柔らかさがプラスされ、なんだか気が緩んでしまうようなゆったりとした空気感。誰にも教えずにこっそり時間つぶしに訪れたくなる場所だ。
ほら、また匂いにつられて扉が開いた…
味も食感もいろいろ楽しめる焼き菓子セット
地味だけどナイスな風味付けをする名脇役のアーモンド。杏では彼らを主役に大抜擢し「アーモンド菓子」と銘打ちふんだんに使用している。
カフェスペースでは、5つの焼き菓子がちょこんとお皿に乗ったこのお店ならではの「焼き菓子セット」が頂ける。さらにドリンクを頼むともれなく2つも焼き菓子が付いてくるのでなんと合計7つの焼き菓子が一同に揃うことになる。これを全部独り占めに出来る幸せったら…何と言うことでしょう!
また、季節のフルーツのパフェには自家製グラノーラとアーモンドキャラメリゼが主役級に光り、食感のアクセントが嬉し香ばしで五感に楽しい。
上:タテモノ好きに朗報!内装の見学だけも大歓迎とのこと
下:お行儀良く並んだ焼き菓子たちは、プレゼント用にも、自分用にも
ナッツたっぷりというとずっしり胃にきそうだが、彼女のお菓子はしっかり食べ応えがあるにも関わらず、いつまでも美味しく頂ける。それは、ひとつひとつ、丁寧に積み上げられた味だからかもしれない。
少しでも条件が変わればすぐに機嫌を損ねてしまうのが焼き菓子の面白いところだと語る彼女は、今日もいそいそと彼らのお世話をしながら笑顔で出迎えてくれる。
シンプルな製法だからこそ、作り手の人間性がにじみ出る焼き菓子。
ほら、路地裏のガレージの奥、ちょっと覗いてみてごらん。
味覚と食感でお口の中が賑やかになるブルーベリーレアチーズパフェは期間限定
上:美術家 中島麦氏の手書きのナッツたちの窓
下:小上がりのカフェスペースは自分の巣のように落ち着く
アーモンドクッキー 150円、フィナンシェ 170円、焼き菓子セット350円、パフェ 600円(内容・価格は季節により変更)
※テラス席の場
合ペット同伴可
取材・文・写真/後藤 真悠子