大阪の薬の町、道修町(どしょうまち)
医薬品産業の発祥
“仏像” この言葉を見るとテンションが上がる人も居るだろう。私達の知らない所で密かに仏像がキテいる。今や、その知らない間に来たブームも落ち着き、安定した人気を獲得している。ただ仏像を見に行くだけの、見仏(けんぶつ) という新しい言葉が約10 年前に生まれ、そのあと東京で行われた“阿修羅展” で、爆発的に人気に火が付いた。仏像には地味っぽいなどの先入観や固定概念があったが、今では“アシュラー” という流行語ができるほどにイメージは裏返っているらしい。そこを攻めるカフェがオフィス街・本町の地下に密かに存在している。SEMBA223cafe。予想の斜め上を行った仏像とカフェの組み合わせ。
考えてみるとカフェでゆったり過ごす中、静かな仏像を眺めるのは思いのほかマッチするかもしれない。しかしまったく想像が付かない。中はどんな風になっているのだろう。オフィスビル内の階段を降りてドアを開けると、そこにはライトアップされた
ステージに小さな仏像がずら~っと並んでいた。
臨場感ある阿修羅(あしゅら)
なんと店内にある仏像は自由に触ったり、自分の席まで持って来ても良いとのこと。仏像は一般的には触ってはいけなくて、持ち運びなんて絶対にできないものだと思っていたので「え!良いんですか?」と思わず聞いてしまった。この感覚は、花屋さんで勝手に花束を作ってはいけないのと似ている気がする。ステージに並ぶ仏像は、フィギュアにしてはあまりにもリアルに作られ、錆具合や色合いまでもが忠実に再現されていた。
“インテリア仏像” と呼ぶらしい。目は特にリアルで本当に目が合ったかのよう、ドキっとしてしまう。店主の高橋さんが「普段見辛い背中や顔のシワまでじっくり見てください。」と、仏のような穏やかな笑みで話してくれた。毎月、総監督で
ある高橋さんが考え抜いてステージに立つ仏像の入れ替えをしているそうで、アイドルがセンターを争うように、仏像達の中でも熱い戦いがありそうだ。
上:蔵王権現(ざおうこんげん)
下:天燈鬼(てんとうき)、竜燈鬼(りゅうとうき)
当然のことながら、仏像は勝手に動かないし自分の話し相手にはなってくれない。私達自身も仏像と1 対1 でお茶をしていても声を出したりしない(はず)。「ここに来る人の大半は、仏像を心の鏡にして自分自身と会話し、嫌なことや仕事でミスをしたら顔がちょっと怖く見えたり、良いことがあれば優しく微笑んでいるような気がして、仏像様ありがとうなんて感謝したりするそうです。」と、語る総監督である高橋さんの後ろからは後光が差しているように見えた。現代は様々な情報が溢れこぼれている。いつもせわしなく追われる日常だからこそ、自分自身を映し、ゆっくりと心を満たせる仏像が求められているのかもしれない。仏像カフェと言うだけあってメニューの中には、「阿修羅セット」や「不動明王セット」といった仏像とかけた特別セットも用意されている。ステージに並ぶ仏像をお持ち帰りできるようになっていて、お気に入りのメンバーと一緒に帰れるのはアイドル以上の特典に違いない。
テーブルに並ぶカフェセットと弥勒菩薩 (みろくぼくさつ)
ライトアップされたステージに並ぶ仏像達
取材・文・写真/川端 彩華