おもしろい人、ものが集まって
コラボレーションする。
それがアートの新しいカタチ。
東日本大震災を機に価値観が変わった。
新世界を人力車で駆けまわり9年。黒縁メガネ、ハチマキ、トラ柄の足袋という大阪人らしいコスチュームをまとい、ふぐのづぼらやの近くでいつも待機しています。僕が目指すのは、ガイドブックに載ってないディープな大阪案内。コースのいちばん最初に50円で売ってるジュースの自動販売機を紹介するんですが、これだけでほんまに盛り上がるんです(笑)。そのあとは、104年前からある「新世界稲荷神社」にお参りに行ったり、時間の長いコースの場合は上町台地の方まで抜けて、真田幸村や大阪の陣の舞台を案内したりもします。
新世界界隈は、飛鳥時代の話も、徳川家康や豊臣秀吉といった戦国時代の話も、通天閣の近代史の話もできる魅力的なエリア。だからこそ観光客の方はもちろん、地元・大阪の人も楽しんでもらえると思うんです。その証拠に、串カツ姉ちゃんとか、寿司屋の小さいお子さんとか、通天閣の会長とか、地元の方たちのご利用もめっちゃ多い! 僕が知らないお店や歴史を教えてくださったりするんで、「もっと頑張ろう」っていい刺激になっていますね。
いつもお世話になっている喫茶タマイチのマスター
大阪生まれ大阪育ち。ラグビーをずっとやっていて、スポーツ推薦で京都府内の高校へ入学。卒業後は自衛隊に入隊し、2年ほど京都府内の駐屯地で仕事をしていました。後に自衛隊を辞め、沖縄でダイバーをしながら転職活動をしていたとき、求人広告誌で「俥夫」の求人広告を見ました。すぐに「これや」って思いましたね。実は、高校のラグビー部のときの練習に嵐山まで走って帰ってくる特訓があって、そのときに俥夫の姿を見て「かっこいい」と思っていたんです。まさか、自分がやることになるとは思いもしませんでしたが、そのときの記憶がひしひしと蘇ると同時に、運命を感じました(笑)。
その後、嵐山など京都府内の観光地で勤務し、経験を積みました。特に京都は、古くから都と密接にかかわってきた街ということもあり、日本史を理解していることは大前提だったので、毎日勉強で苦労しましたね。そして、通天閣と新世界が100周年を迎える記念の年に、ここ大阪・新世界で人力車を営業するように声をかけられ、今に至ります。
ビリケンさん人形が待つ座席
この仕事をはじめて、「大阪って、あったかい街なんやな~」って再確認できたんです。毎日曳いてると、このあたりでお店をしておられる方、近所のおっちゃんやおばちゃんが家族や友達かのように話しかけてくれる。さらには、毎朝自主的に掃除をしていたら、人力車にお菓子やおにぎり、ハマチの刺身が置かれていることもあって…。下町人情が残るこの街ゆえのやさしさ、あたたかさを感じ、「これからも頑張らないと」って思います。
僕がこれから目指すんは、大阪らしいオモロイ俥夫! これこそ、京都とか、鎌倉とかほかの観光地ではできへんことやと思います。今、相方と考えているのは、車夫同士の漫才。やっぱり、おもしろくてなんぼやと思うんで、頑張って練習したいですね(笑)。今後は人員も補強して、新世界からエリアを広げていきたいです。観光地では女性の俥夫もいるので、やる気のある方がいれば是非一緒に働きたいと思います。そして、大阪の文化や魅力を全国に、世界に発信していきたいです。
取材・文/櫻井 千佳、写真/山下 拓也