スタイリッシュにもちかえろう
いい匂いのするアトリエ
こんな場所が大阪市内にあったのかと驚く。車がせわしなく行きかう谷町筋に、差し込む光が気持ちいい木板のカウンター席。
その奥に表とは全くちがう質感の、光を落とした黒と深紅のモダンな書斎があることを通行人は知らない。背表紙で物語る本たちや、いかにも層の厚い音を出しそうなオーディオ類、持ち主の趣味が垣間見える雑貨たち…個人の内面を映し出したかのような空間は何故か妙に落ち着く。
ここは会社や家庭での役割を解き放ち自分自身に戻れる“サードプレイス”。庵主(ここではマスターのことをそう呼ぶ)が長年自宅にコレクションしていた本や雑貨を運んできて作った空間は、他人の家に招かれ思いのほか寛いでしまった時の感覚を思い起こす。しかもただの家ではなく、多趣味家の書斎ときたら、子供のような好奇心も呼び覚まされる。人の顔をじろじろと見るようで初めは気が引けたが、ついつい本棚を物色してしまい、手に取った本にいつの間にか夢中になってた。他人の趣味の覗き見は大人になればなるほど面白いのかもしれない。
ガレットはカウンター席だと調理風景を見学できる
14時からは、これまた長年の趣味から生まれた特製レシピのガレットがいただける。味は3種類あるが、なかでも「完成」という意味のコンプレットがおススメ。パリパリの生地に包まれた卵・ハム・チーズの上にはピンクペッパーが利いていてお酒が欲しくなる味。思わずシードルに手が出そうになった。
コーヒーは豆の旨みがぎゅっと詰まったプレス式。抽出に少し時間がかかるので、せっかちな大阪人は待ってくれないのではと開店当時は懸念されたが、この空間なら急ぐ人なんているはずがない。
ほかにも、ミユクほうじ茶(ほうじ茶ラテ)や大人のピアノ教室(詳しくは次の段落で)の先生お手製オレンジケーキなど、気の利いた寛ぎタイムのお供がある。
上:マニアでなくても、覗き込みたくなるオーディオたち
下:洒落の利いたおしながき
さらに特筆すべきは、音。店名でもあるスピーカー「ジョージアン600」から流れる音は鼓膜を心地良く刺激し、多種多様なジャンルの音をテーマごとに選曲したイベントを不定期で開いたり(レコードやカセットテープなど音源も様々でピアノ生演奏もある)、庵主特選のレコードを普段より大きな音で楽しむ「みゅーじっく・たいむ」が第1・3土曜日に開かれている。
奥のスペースは大人のためのピアノ教室となっていて、生徒さんの練習中には書斎にもライブよりもライブ感のある音がほんの少しだけ漏れるのだが、完成された音とはまた別の楽しみがあると皆さん口を揃えるそうだ。
月並みな言葉にはなるが「大人の空間」という言葉がぴったりな書斎かふぇ。そこには、自分のペースで歩んできた大人たちの、ちょいと休憩をばに応えてくれる時間がある。
上:ミニコミックから古のレリーフまで幅広く取り揃えた趣味のものたち
下:自家製ケーキもお試しあれ
11月に開かれた「音楽で綴る武士道・騎士道物語」で真剣に音を楽しむ来場者達
武士にちなんだおつまみとドリンクつきだった
珈琲 400 円、ミユクほうじ茶 400 円、スイーツプレートセット(ドリンク付)1,200 円、そば粉のガレットセット(ドリンク付) 1,500 円、その他サイドメニュー 350 円〜
取材・文・写真/後藤 真悠子