ジュース屋さんは朝が早い
きったり、むいたり、しぼったり
幹線道路に挟まれながらも、昔ながらの風情ある街並みが残る谷町六丁目。下校時間になると子供の声が響きたる住宅街を歩いていると、とある裏路地に出会った。自分の目を一瞬疑った。“ロンドンだ。” − 吸い込まれるように、落ち着き払ったファサードをくぐると、そこには非日常的な時間の香りが漂っていた。
ここはトリントンティールーム・紅茶とイギリス料理の店。“トリントン”という名はロンドンに紅茶を運んだティークリッパー船からもらった。大航海時代、どの船が中国から1番早く紅茶葉を輸送できるかがこぞって競われ、英国中を沸かせた。そのロマンある木造船のデッキを模した店内で頂く紅茶は、ふわっといい香りが鼻に抜け、時間が経ってもその味と香りが褪せることなく、ずっと楽しめる。特筆すべきは、大きな差し湯ポットも共にサーブされるということ。他ではあまり見ることのないこのポット、紅茶というと作法などもあるだろうから、この湯はどうするべきなのかと少々戸惑ったが、ここは素直にプロに聞いてみることにした。
上:紅茶を注ぐという行為も、ティータイムの楽しみのひとつ
下:見た目がそっくりなクランペット(右前)とウェルシュケーキ(左前)
返ってきた店主の答えは“お好きなように”という言葉と、笑顔。カップに注いでお好みの濃さにするも良し、ポットに注いで二煎目を頂くも良し。ルールなんかより目の前のこの紅茶を楽しむ、それが大事なのかもしれない。myポットを幼い頃から持っていた店主が淹れてくれる紅茶の味と時間、自分なりの楽しみ方を見つけたい。
さて、ここのゴチソウは“クランペット”なるもの。英国ではお馴染みの味で、こちらもまた100年以上愛されている、べっこうあめのような味でとろっとしたゴールデンシロップと頂くのが定番。もちもちしていて、小ぶりながら食べ応えがある。今回は欲張りに片割れをウェルシュケーキに変更した。こちらはほろほろとした食感。どちらも小麦粉メインながら、全く性格の違う二つ。英国の味は思いのほか奥深いのかもしれない。
ウェルシュラビット風チーズソースのクランペット
この店ではクランペットをバリエーション豊かに楽しめる。その中からウェルシュラビットというものをオーダーした。チェダーチーズ、ウスターソース、マスタードからなるソースは本来、トーストにかけるものらしい。チーズ&ウスターとは、一見何ともヘビーだが意外とパクッと食べれ、紅茶との相性も考えられたバランスの良いお味。イギリスはブレンド文化。紅茶もウスターソースもカレーパウダーもその賜物で、世界中からいいモノを寄り集めてきたということらしい。この店も英国の伝統と、自分達の持ち味を程良くブレンドしている。
しかしポーションは英国らしく、どれもたっぷり。お腹一杯で満足して欲しいという、店主たちの心遣いだ。
目で、舌で、胃袋でイギリスを堪能した昼下がり。つかの間のひとときで、かの国へのハッチが開かれた。
上:こんなところにロンドンが
下:こちらで使用しているバーレイ社のティーウェアなどはお買い物も出来る
上:『紅茶は世界を蘇らせる』第二次世界大戦中に発行されたなんとも英国らしい地図
下:デッキに乗り込んだら、さあ出発
紅茶 520円〜、トリントンのクリームティー (クランペットORウェルシュケーキ+紅茶) 910円、惣菜とクランペットのセット 1220円〜
取材・文・写真/後藤 真悠子