ジュース屋さんは朝が早い
きったり、むいたり、しぼったり
百貨店の和菓子エリアに行くと、ショーケースの中には大抵キチッとかしこまった彼らが鎮座している。最近はちょっとずつカジュアルダウンされてきて、最中皮をアレンジしたレシピが話題になっていたりもする。けどそれもやはり現時点ではかなり斬新な試みであって、「最中を買いに行く」となるとやはり、しっかりとした四角い箱にきちんと並べられたあれを想像してしまう。贈り物を包む和の心という本質は変わらずも、そんな従来のイメージとは随分異なる“最中屋”が生活と密着したまち、ここ谷町にある。「ちょっとこれ、食べてみて!!」と美味しさのあまり、ついついセリフ付きで人に勧めたくなるような、飾り気のなさが魅力の最中だ。
ここの最中餡は、厳選された素材たちのすっぴんな美味しさがしっかり伝わる甘さ控えめなお味。いろいろ試した結果、1番美味しかったという北海道産の手芒豆(てぼうまめ)が生きている。食べる直前に餡を自分でセットするので、縁起の良い梅を象った国産もち米100%の最中皮は香ばしくてぱりっぱり。また、お酒好きにはもってこいの味噌餡ラムレーズンバターや、季節ものの苺最中や豆乳アイス最中…来るたびにとっておきの味に出会える場所だ。
のっぽな豆乳アイス最中は、お上品に食べることなぞ考えないほうが似合うかも
様々な和菓子作りの現場で経験を積んできた店主は「和菓子には無理がない」という。和菓子の主な材料はもち米・豆・水で洋菓子のように油を使わないので大量の洗剤は不要、ラップは殆ど使わず、繰り返し使える布巾が冷却・保温・保湿となんでもこなす。最初に修行したおじいちゃんが1人で営む和菓子屋では冷蔵庫もなかった。
しかし和菓子作りはエコな反面、人間には重労働。この店では機械に頼らず、昔ながらの手法を守り銅鍋で餡炊きする。高温で重たい餡を一気に練るのだが、熱い餡は天井まで飛び散るくらい危険だし、か弱い女性では務まらないほど筋力が要る。そんな骨太かつ丁寧な作業を重ねているからこそ、豆が生きた餡がこしらえられるのだ。
皮は、今ではかなり貴重な最中皮屋さんがいつも新鮮便を届けてくれる。職人たちが手を繋ぐのも、古くからのもんのええ所。
上:毎朝の餡炊きはこのお店の生命線
下:職人さんが作る最中皮はそれだけで宝物のよう
自身の化粧や衣服の香りにも気を使うほど(柔軟剤もNG!)繊細な和菓子。それを、例えば昆布と餡という一見マニアックな組み合わせでとびっきりの味にしてくれるのがこの一吉。また味噌餡が「花びらもちだけでは勿体無いくらい美味しいから」バリエーション豊富なのも特色。色んな素材を小さな最中皮にこんなにも上手く詰め込んでしまうのは、きっと最中職人の好奇心旺盛なキャラクターも手伝ってのことだろう。
その味と店主たちの人柄か、取材当日は常連さんが世間話がてらに立ち寄ったり、ちびっことお母さんが仲良くおやつを買いに来たりと小さな舞台に沢山の人情劇が繰広げられていた。子供からお年寄りまで、手を汚さずぱくっとほおばれる最中。贈るだけじゃなく、自分用のおやつにもしたくなる一吉の最中。「最中はエライ」には、そんな昔からの知恵とワクワクが詰まっている。
上:定番の粒餡、味噌餡ごぼう、味噌餡いちじく、ごまくるみ、きなこ粒餡
下:<春は苺最中>こちらはバター餡・ゆずピール・ピスタチオという大人の味版
小さなショーケースには色んな想いが詰まっている
味噌餡いちじく220円、豆乳アイス最中 320円〜(餡トッピング+30円)、味噌餡ラムレーズンバター 240円、きなこ粒餡 210円、粒餡 200円
取材・文・写真/後藤 真悠子