おもしろい人、ものが集まって
コラボレーションする。
それがアートの新しいカタチ。
東日本大震災を機に価値観が変わった。
「筆」といえば、書道の時間で使うもの。外国では「ジャパニーズフデ」と自慢はできるものの、実際は御祝儀袋に名前を書く時くらいしか使わないし、それも本物の筆ではなく筆ペンばかり…一般的なイメージはこんなものだろうか。けれども、現代のように多種多様な筆記具で溢れていなかった昔は、筆はもっと身近なもので、文房具といえば筆だっただろうし、戦前までは公文書には必ず筆が用いられていたそうだ。現在でも学校では「筆箱」を持ってこなければ先生に怒られ、「筆者」はああだこうだと「加筆」しながら記事とにらめっこ…何気なく使う言葉に何の違和感も無く登場する筆。もちろん長い歴史から言えば当たり前のことかもしれないけれど。−そんな疎遠になっている現代人と筆との関係について考えてみたくなる筆屋が、大阪の繁華街の裏手にある。
明治、船場にて創業した筆の大問屋は、戦後のGHQの書道禁止令という致命的な危機を乗り越え、幾度か引越しや形態を変え、4代目が切り盛りする現在は筆と和紙の小売やギャラリーも併設した店として、島之内という変わりゆく町を見守っている。ご主人のものづくりへの徹底的なこだわりから、本物には本物をと、和紙を取り扱うことになったのも至極自然な流れだった。
美しく揃った筆たち
使い心地第一のため、余計な装飾を施さない丸山雄進堂の筆は、その品質と店主の熱意から書家や画家、伝統工芸士に長く愛用されている。そんなその道のプロたちの信頼に応える傍ら、近年は筆を知らない人たちにも知ってもらおうと、筆の書き比べの動画や和紙の耐久テストの動画をウェブで公開したり、ワークショップを開いたりと、間口を広げている。それは「やるなら徹底的に」の職人根性の塊のご主人が若い世代に向けたメッセージのごく一端であった。
実際に店に出向きお話を伺うと、ものづくりをする人はまず道具選びも大切にしてほしいと、熱い想いがほとばしっていた。
筆のことだけではなく人生の真隋を教えらているようだった。
上:「お気軽にお入りください」 下:試し書き用の筆がこんなにも
店内の筆は試し書きをさせてくれる。用途や好みによって使う筆も異なるので、ご主人に相談しつつ書き心地を確かめながら、これぞの一本を見つけたい。またお隣は「筆屋ギャラリー」として不定期に展覧会を催している。
ご主人は筆屋以外にも、レース用マウンテンバイクの設計者としてものづくりを突き詰めた真の職人。「道具ひとつを変えることで、未来が開けるかもしれない。」という言葉には、誰もが飛びつきがちな成功者のハウツー本の活字には表せない説得力がある。筆者はたまに筆で文字を書きたくなるので、そんな筆を探しに来たのだが、畑は違えど、物事の本質はみな同じなのかもしれない。
さあ、これからどんな筆を執ろうか。
和紙もさまざまな材質・色があり、それぞれ性格が違う
上:和紙の原料である楮(こうぞ)下:右の丸山雄進堂の筆は左の筆のような軸先(黒い部分)が無いので長時間持つ場合使い手の負担が軽減される
取材・文・写真/後藤 真悠子